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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)7729号 判決

アメリカ合衆国カリフオルニア州 コンブトン グラツドウイツクストリート 二〇〇六

原告

ウインドサーフイン インターナショナル インコーポレイテツド

右代表者

ホイール シユバイツアー

東京都渋谷区本町一丁目六〇番三号

原告

勝和機工株式会社

右代表者代表取締役

鈴木東英

原告ら訴訟代理人弁護士

三宅正雄

安江邦治

右輔佐人弁理士

松永宣行

東京都千代田区一番町一四番地スワイヤハウス

被告

コブラ・ジヤパン株式会社

右代表者代表取締役

國吉良治

右訴訟代理人弁護士

谷玄

永沢徹

渡辺昭典

和智洋子

右当事者間の昭和六一年(ワ)第七七二九号損害賠償請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告ら各自に対し、五四〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告勝和機工株式会社(以下「原告勝和機工株式会社」という。)に対し、一七六〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負損とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1(一)  原告ウインドサーフイン インターナショナル インコーポレイテツド(以下「原告ウインドサーフイン」という。)は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有していた。

特許番号 第六三〇三五二号

発明の名称 風力推進装置

出願日 昭和四四年三月一一日

公告日 同四六年五月三一日

登録日 同四七年一月一一日

存続期間満了の日 同六一年五月三一日

(二)  原告勝和機工は、本件特許権について、原告ウインドサーフインから、次のとおり、範囲を日本国全域とする独占的通常実施権の許諾ないし専用実施権の設定を受けていた。

(1) 昭和四九年八月二〇日から同五六年三月二七日まで独占的通常実施権

(2) 同五六年三月二八日から同五九年八月二〇日まで専用実施権

(3) 同五九年八月二一日から同六一年一月二七日まで独占的通常実施権

(4) 同六一年一月二八日から同年五月三一日まで専用実施権

2  本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(ただし、昭和五八年七月二七日付訂正審判請求に基づき訂正したもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、本判決添付の特許審判請求公告中の訂正明細書(以下「本件訂正公報」という。)の特許請求の範囲の項記載のとおりである。

3  被告は、昭和五八年七月から同六一年五月三一日までの間、業として、別紙目録記載の風力推進波乗り装置(以下「被告製品」という。)を販売した。

4  被告製品は、次に述べるとおり、本件発明の構成件をすべて充足し、その作用効果も本件発明のそれと同一であるから、本件発明の技術的範囲に属する。

(一)(1) 本件発明の構成要件は、次のとおりである。

A 使用者を支持する本体装置である波乗り板があること

B 推進力として風を受け入れる風力推進手段があること

C 前記風力推進手段は、

ア 円柱と、

イ 該円柱に長い端縁部で取り付けられた帆と、

ウ 前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互いに連結され、かつ、一端で前記円柱に、また、他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、

エ 該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントと

を備えることを特徴としていること

(2) 本件発明の作用効果は、次のとおりである。

波乗り板に帆を設けることによつてこれを水上ボートにかえる場合、突風や激風によつて波乗り板が転覆する危険性が大であつたが、本件発明は、突風又は激風がつた場合、使用者が帆から手をはなし風力により帆を風下に倒すことにより、本体装置の転覆を免れることができるようにしたものであり、更に、使用者がブームを把持し、風向きに対し、帆の位置及び角度を調節するだけで、波乗り板を使用者の望む方向に進行させることができるという作用効果を有する。

(二)(1) 被告製品は、別紙目録記載のとおりの構造であるところ、

ア 波乗り板である本体装置(ボード部)a(被告製品についてのa、b等の記号は、別紙目録記載の記号を指す。)を有し、かつ、同装置は、使用者を支持する動きを有しているので、本件発明の構成要件Aを備えており、

イ マストcにその一辺を嵌装されたセイルbが存在し、また、マストcの下端部はゴム・ジョイントkに嵌合され、右ゴム・ジョイントkの下端部は本体装置(ボード部)aに結合され、セイルbが別紙目録の三3に記載する態様の作動(作用効果)をするから、推進力として風を受け入れる風力推進手段を有するものであり、したがつて、本件発明の構成要件Bを備えており、

ウ マストc、セイルb、一対のブームd及びマストcを本体装置(ボード部)aに回転及び起伏自在に連結するゴム・ジョイントkを備え、かつ、各部材は、別紙目録の三1ないし3に記載する態様の作動をするから、本件発明の構成要件Cを備えている。

(2) 被告製品の作用効果は、本件発明のそれと同一である。

5  原告ウインドサーフイン及び原告勝和機工は、原告勝和機工製造に係るセイルボード(以下「原告製品」という。)を原告勝和機工の子会社である訴外ウインドサーフイン・ジヤパンを通じて販売していた。

被告は、原告ウインドサーフインが本件特許権を有し、かつ、原告勝和機工が前記1(二)のとおり独占的通常実施権ないし専用実施権を有することを知りながら、昭和五八年七月から同六一年五月三一日までの間、被告製品を少なくとも五〇〇〇艇販売した。

原告らは、被告の右行為により、原告製品の販売数量が少なくとも五〇〇〇艇、金額にして九億円少したため、次のとおり損害を被つた。

(一) 原告勝和機工が原告製品を販売して得る利益は、販売価格の二五パーセントであるから、失つた利益のは、少なくとも二億二五〇〇万円(九億円×二五パーセント=二億二五〇〇万円)を下らない。

(二) 原告ウインドサーフインは、原告勝和機工に対する本件特許権の独占的通常実施権の許諾ないし専用実施権設定の対価として、正味販売価格の六パーセントに相当するロイヤリテイーを受ける権利を有していた。したがつて、原告ウインドサーフインは、原告勝和機工が九億円相当の原告製品の販売をすることができなかつたことにより、その六パーセントに相当する五四〇〇万円のロイヤリテイー収入を失い、これと同額の損害を被つた。

6  よつて、原告勝和機工は、被告に対し、前記5(一)の損害二億二五〇〇万円(ただし、うち五四〇〇万円は、原告ウインドサーフインの請求と不真正連帯債権)のうち二三〇〇万円、原告ウインドサーフインは、被告に対し、前記5(二)の損害五四〇〇万円(ただし、原告勝和機工の請求と不真正連帯債権)のうち五四〇万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1(一)は認める。同1(二)は知らない。

2  同2は認める。

3  同3のうち、被告が、原告ら主張の期間、別紙目録の図面及び説明書記載の被告製品(ただし、「ゴム・ジョイントk」を除く。)を販売したことは認める。被告製品のジョイントは、ラバージョイントであつて、原告ら主張のゴム・ジョイントkとは構造又は形状を異にするものである。なお、別紙目録商品名一覧表中、フアン三五〇の八七年型、フアン三二〇の八七年型、ラツド二六〇の八七年型、ラツド二九〇の八七年型、スラローム二六〇の八七年型及びデビジヨンⅡは、本件特許権の存続期間満了後に販売したものである。

4  同4(一)(1)は認め、同(一)(2)は否認する。

同4(二)(1)のうち、被告製品に使用者を支持する本体装置である波乗り板があること(構成要件A)は認め、その余は否認する。被告製品は、後記のとおり、ユニバーサルジョイントを備えておらず、構成要件Cエを充足しない。

5  同5は否認する。

三  被告の主張

被告製品は、以下のとおり、本件発明の構成要件Cエを充足しない。

1  本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の記載に照らせば、次のとおり、被告製品は、本件発明の構成要件Cエを充足しない。

(一) 本件発明にいう「ユニバーサルジョイント」の学術用語における普通の意味は、「自在軸継手」ないし「自在継手」を意味し、これには種々の構造を持つたものが含まれるが、いずれも、一定の軸のまわりを自由に回転することのできる部分を二か所以上持つ機械的構造のものを意味している。すなわち、ユニバーサルジョイントは、日本語では、「自在継手」と呼ばれるが(乙第六号証の広辞苑第二版二二五九頁、乙第七号証の英和貿易産業辞典第二版九九三頁)、その構造については、「機械工学全書40 機械用語辞典」に、「接続すべき二軸の軸端にふたまた(ホークエンド)を設け、それぞれを一個の十字形部品の直交する二軸と回り対偶を利用して接続した原理のもので、接続された二軸は必ずしも一直線上にあることを必要とせず、ある角度で交わる向きにあつてもさしつかえなく動力を伝えることができ、しかも一方の軸の整数回転は同じ整数回数を他軸に与える性質のものである。」(乙第八号証一七七頁)と説明されている。そして、学術用語において、ユニバーサルジョイント(自在継手)は、ゴムを利用した弾性軸継手とは全く別の物として分類されているのである(乙第九号証の「機械要素設計」一〇五頁、乙第一〇号証の「機械工学便覧」一九七頁、乙第一一号証の「JISハンドブツク機械要素」八二四頁)。

ところで、特許法第七〇条は、「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と規定し、その明細書の記載方法は、「技術用語は学術用語を用いる」、「用語は、その有する普通の意味で使用し、かつ、明細書全体を通じて統一して使用する」とされている(特許法施行規則様式16、備考7、8本文)。したがつて、本件発明の構成要件である「ユニバーサルジョイント」も、当然、学術用語の普通の意味に従つて右のような機械的構造のものと解釈されなければならない。そして、そのような普通の意味以外の意味で使用する場合は、「特定の意味で使用しようとする場合において、その意味を定義して使用するときはこの限りでない。」(同様式16 備考8但書)と規定されているように、明細書においてその旨定義しなければならないのであり、そのような定義がされていない以上は、ユニバーサルジョイントとは、右の普通の意味で使用されているものと解釈されなければならないのである。

これに対して、被告製品のラバージョイントは、その材質、形状等に独自の工夫をらしたものであることはもちろんであるが、構造的には、単なるゴムのかたまりであつて、機械的構造物であるユニバーサルジョイントとは全く異なるものである。

(二) 本件明細書には、「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備える」(本件訂正公報三頁右欄八行ないし一一行)と記載されているが、右記載は、「回転及び起伏させることができるようにユニバーサルジョイント(という物)を備える」ということを意味するものであつて、「回転及び起伏させることができるような『機能を有する』ジョイントである」というような定義ではない。若しも、定義するのであれば、「この明細書において、ユニバーサルジョイントとは……をいう」というような記載がされるべきであるが、そのような記載はされておらず、しかも、本件明細書の右記載には、「機能」という文言は全くないのである。したがつて、本件明細書には、形式的にも定義部分はないし、実質的にも「機能」による定義はされていない。

また、本件発明の「ユニバーサルジョイント」は、動力を伝達することはできず、また、してはならないものであるというような定義も、本件明細書のどこにも記載されていない。本件発明の特許請求の範囲には、「回転及び起伏させることができるようにユニバーサルジョイントを備える」とのみ記載されているのであるが、通常の二軸のユニバーサルジョイントを用いた場合でも、「回転及び起伏させること」は可能である。すなわち、二軸のうち一軸を鉛直に、一軸を水平に設定すれば、マストを波乗り板に対して回転及び起伏させることは可能である(この場合、このユニバーサルジョイントは、水平軸そのものを回転させる方向にマストに加えられた回転力を波乗り板に伝達する。)。したがつて、ユニバーサルジョイントを学術用語の普通の意味に理解して何ら矛盾はない。もつとも、本件明細書に実施例として記載されている「三軸線ユニバーサルジョイント」は、通常の場合、マストに加えられた回転力を波乗り板に伝達することはない。したがうて、本件発明の構成要件である「ユニバーサルジョイント」には二軸の回転力を伝達できるものだけでなく、三軸の回転力を伝達できないユニバーサルジョイントも含むと解することは可能であろう。しかし、そのことと、ユニバーサルジョイントは「機能」により定義されていると考えられるかということとは全く別の問題である。前述のように、ある用語を特別の意味で使用する場合は、必ず定義しなければならないのであるが、本件明細書にはその定義が一切されていないのである。

(三) 本件明細書には、「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて波乗り板に風力推進手段の円柱が連結されている。」と記載されている。右記載については、二通りの解釈、すなわち、(1)特定の実施例において、(ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸を備えた接手)、又は(使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手)によつて波乗り板に風力推進手段の円柱が連結されているという解釈と、(2)特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば(三個の回転軸を備えた接手)、又は(使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手)によつて波乗り板に風力推進手段の円柱が連結されているという解釈とが可能である。右(1)の解釈によれば、「ユニバーサルジョイント」と「自由浮動状態にする継手」が並列に接続されており、この二つは、異なる概念であることになる。また、(2)の解釈によれば、「三個の回転軸を備えた接手」と「自由浮動状熊にする継手」が並列に接続され、この二つはいずれも「ユニバーサルジョイント」の例であることになる。このうち、(1)の解釈が正当である。まず、文理的には、読点の打ち方に注意すべきである。このように、読み方によつては二通りに解釈できる可能性がある場合、文章の作成者は、読点の位置に注意を払い、誤解のないように工夫するからである。そこで、本件の場合についてみると、(1)の解釈をとれば、意味内容の切れ目に読点が打たれていることになる(括弧の位置に読点がある)が、(2)の解釈をとると、意味内容の切れ目と読点の位置が一致しない。もし、(2)のように解釈して欲しいのであれば、「例えば」の直前に読点を打ち、「又は」の直前の読点は削除すべきなのである。したがつて、文理的には(1)の解釈が正当であることは明白である。次に、論理解釈上も、次のとおり(1)が正当である。(2)の解釈をとると、「自由浮動状態にする接手」は、「ユニバーサルジョイント」の一つの例であることになる。つまり、「自由浮動状熊にする接手」の方が「ユニバーサルジョイント」よりも狭い概念であることになる。「ユニバーサルジョイント」を「回転及び起伏できる接手」であると広く解しても、「ユニバーサルジョイント」の方が「自由浮動状態にすることができるような接手」よりも広い概念であることはありえない。つまり、(2)の解釈をとると、論理的な矛盾が生じるのである。

以上のとおり、本件明細書の右記載は、(1)のように解釈されるべきであつて、「ユニバーサルジョイント」と「自由浮動状態にすることができるような接手」とは異なる概念であるというべきである。したがつて、本件明細書の発明の詳細な説明には、「ユニバーサルジョイント」と「自由浮動状態にする接手」の二種の異なる継手が開示されているところ、特許請求の範囲は、そのうちの一方である「ユニバーサルジョイント」のみに限定したものと解釈すべきである。

2  本件発明の出願経過及び訂正審判の経過等に照らせば、本件発明におけるユニバーサルジョイントは、本件明細書において実施例として記載された構造のものに限られるべきである。

(一) 原告ウインドサーフインは、本件発明の特許請求の範囲の訂正の過程において、特許請求の範囲としてのマストの檣根座部分を、本件明細書の実施例に記載され、かつ、図面に示されたとおりの構造のもの、すなわち、メカニカルな構造の継手に限定し、これを自ら「ユニバーサルジョイント」と呼んでいるのである。

原告ウインドサーフインは、第二次訂正審判請求において、次のように主張している。「上記風力推進手段について、その構成が原本の発明の詳細な説明の欄において実施例として記載されかつ添付図面に示されたとおりの「……前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備える。」ものであることを特許請求の範囲の記載中で明らかにすることは、……上記風力推進手段の構成を限定するものであり、この限定は特許請求の範囲の減縮に該る。」(乙第一四号証の第二次訂正審判請求書一四頁)、「上記26の『波乗り板10と……ブーム16、18とを』を『使用者を支持する波乗り板10……三軸線ユニバーサルジョイント36とを備える風力推進手段とを』とする訂正は、訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により構成される風力推進装置は実施例に記載の構造を備える風力推進装置であるところ、その対応関係が原本の記載では不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。」(同二三頁)。このように、原告ウインドサーフインは、特許請求の範囲を、本件明細書に実施例として記載され、かつ、図面に示されたとおりの構造のものに限定しているのである。

(二) 本件発明の旧特許請求の範囲は、次のとおりでおつた(本判決添付の特許公報(以下「本件公報」という。)の特許請求の範囲の項)。「使用者を支持するようになつた本件装置と、前記本体装置と旋回可能に協働し且つ推進力として風を受け入れるようになつた風力推進装置とを包含し、前記推進装置の位置が前記使用者によつて制御でき、前記推進装置が使用者の不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。」。右旧特許請求の範囲は、記載が曖昧で無効とされるべきものであるが、右記載内容を普通に解釈する限りでは、この特許請求の範囲におけるマストの檣根座部分は、単に「旋回防止力を失う」とされているだけで、メカニカルな構造のものに限定されてはいなかつた。これに対して、いくつもの無効審判請求がされたが、原告ウインドサーフインは、おそらくこれに対する防御のため、昭和五七年二月二六日、第一次訂正審判請求において、特許請求の範囲については、次のとおり訂正するよう求めた(乙第一三号証の第一次訂正審判請求書)。「使用者を支持するようになつた本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協働し、且つ推進力として風を受け入れるようになつた風力推進手段とを包含し、前記風力推進手段は、本体装置に枢着した円柱と、前記円柱を本体装置に連結し、且つ使用者か操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にする継手と、帆および帆をピンと張るため円柱上に横方向に取付け、手で保持するようになつたアーチ状に連結される一対のブームを包含し、前記風力推進手段の位置が使用者によつて制御でき、前記風力推進手段が使用者不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。」。右第一次訂正審判請求の特許請求の範囲は、旧特許請求の範囲の記載を明確化しようとしたものとは思われるが、この特許請求の範囲におけるマストの檣根座の部分は、「風力推進手段を殆んど自由浮動状態にする継手」とされており、ここでもメカニカルな構造のものだけに限定されてはいなかつた。

ところが、原告ウインドサーフインは、昭和五八年七月二七日、第一次訂正審判請求を取り下げ、同日、第二次訂正審判請求をし、特許請求の範囲については、次のとおり訂正するよう求めた。「使用者を支持する本件装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置。」(本件訂正公報の特許請求の範囲の項)。右第二次訂正審判請求の特許請求の範囲におけるマストの檣根座部分は、一転してメカニカルな構造のもの、すなわち、「ユニバーサルジョイント」に限定されているのである。これは、各無効審判請求事件において、ダービーの発明のマストの檣根座部分と本件発明のマストの檣根座部分との同一性が主要な争点の一つとなつていたところ、「風力推進手段を殆んど自由浮動状態にする継手」では、ダービーの発明のマストの檣根座部分と同一になつてしまうために、これをメカニカルな構造のもの、すなわち、「ユニバーサルジョイント」に限定し、同一と判断されることを免れようとしたものと考えられるのである。

(三) 原告ウインドサーフインが、第二次訂正審判請求時において、「ユニバーサルジョイント」という言葉をメカニカルな構造のものを意味する言葉として用いていたことは、次の点からも明らかである。

まず、株式会社プロが請求した無効審判請求事件(昭和五五年審判第一八八一四号)において、原告ウインドサーフインが昭和五七年一二月一七日に提出した「審判請求第二答弁書」には、二か所にわたつて、「ユニバーサルジョイントの代わりにゴム体を用いて帆柱を旋回自在とした市販のウインドサーフイン(ボードセーリング)用艇体」(乙第一六号証の三頁及び五頁)と記載されており、同原告が「ユニバーサルジョイント」と「ゴム体を用いた継手」とは別のものであると認識していたことが明白である。

また、原告勝和機工が株式会社スリーエースに対して提起した特許権侵害排除請求事件(東京地裁昭和五七年(ワ)第七四七五号)における同原告の昭和五七年一〇月一二日付準傭書面には、「なお、特定の実施例においては継手(ジョイント)として、三個の回転軸線を供えた継手、即ちユニバーサルジョイントが使用されているが、使用者が操作しないとき推進手段を殆んど自由浮動状態にする構造のもの、即ち風力推進手段が自由に三六〇度揺動するジョイントであればゴム製ジョイント等でも差仕えない。」(乙第一五号証の六丁表)と記載されており、ここでも、同原告が「ユニバーサルジョイント」と「ゴム製ジョイント」とは別のものであると認識していたことが明らかである。

更に、ウインドサーフイン・ジヤバン作成の一九八三年版カタログ(乙第一七号証)二頁には、「このボードの欠点や性能を検討したのも、そのバーテイのときです。〃マストのつけ根をロープで船体の真ん中に結びつける〃という結論に違しました。つまり、乗り手がバランスをとれないときはどの方向にでもセイルのつけ根をフリーな状態にしたのです。実際にはロープではなく、ユニバーサル・ジョイントを使いました。」と記載され、原告らが「ユニバーサルジョイント」という言葉を「ロープ」という物質自体の性質を利用した継手とは異なるものとして用いていることは明らかである。同様に、同カタログ五頁には、「なぜ、ホイル・シユワイツアーが、そしてWSJ社が、あのガチヤガチヤと大げさなユニバーサル・ジョイントをいまだに使い、カツコいいゴム製のものを使わないのか。」と記載され、原告らが「ユニバーサルジョイント」と「ゴム製の」ジョイントとは異なるものであると認識していることが明らかである。加えて、同カタログ三頁には、「現在、販売しているユニバーサル・ジョイント。ジョイントカバーもついて安全性、耐久性も一段と向上した。正確には、メカニカル・フレキシブル・ジョイントという」と記載されており、原告らは、「ユニバーサルジョイント」は「メカニカル」な構造のものを意味すると自ら定義しているのである。

四  原告らの反論

1  被告の主張1について

(一) 被告は、本件発明にいう「ユニバーサルジョイント」は、『自在軸継手』ないし『自在継手』を意味する旨主張する。しかし、本件明細書のどこにも、本件発明の「ユニバーサルジョイント」が『自在軸継手』ないし『自在継手』であるという記載はなく、むしろ、逆に、特許請求の範囲には、「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」と記載されており、本件発明のユニバーサルジョイントがどのような構成でであり、どのような作動及び作用効果を有するものであるかが明確に定義されている。また、発明の詳細な説明の項には、「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるよう」なユニバーサルジョイントとは、特定の実施例においては、「三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができる接手」であると、極めて具体的かつ明確に定義されている。このように、本件明細書に定義されたユニバーサルジョイントは、「自在継手」とは、その機能において明確に相違している。

被告は、被告製品のラバージョイントは、単なるゴムのかたまりであつて、機械的構造物であるユニバーサルジョイントとは全く異なるものである、と主張する。しかし、前記本件明細書の記載によれは、本件発明のユニバーサルジョイントは機械的構成のものに限定されない。被告製品のジョイントも、本件発明のユニバーサルジョイントに含まれるのである。

(二) 被告は、ユニバーサルジョイントについて、本件明細書には機能による定義はされておらず、これを学術用語の普通の意味に理解しても何ら矛盾はないと主張する。しかし、本件発明の構成に欠くことのできない事項の一つとして特許請求の範囲に記載されているのは、「前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」であり、帆を回転させることのできない(回転力を伝達できる)継手が、ユニバーサルジョイントの一つであるということは、ありえないことである。

(三) 被告は、本件明細書中の文言を取り出して、「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸を備えた接手」という解釈が正しいと主張する。そして、被告は、右解釈の正当性の根拠として「読点」の位置をあげる。しかし、被告は、それよりももつと重要な「例えば」という日本語の存在を忘れている。「例えば」は、複数存在するものの中からある一つを選択した場合に使用する文言である。したがつて、「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸を傭えた接手又は……の接手」という表現をした場合、「ユニバーサルジョイントは三個の回転軸を備えた接手のみをいう」という解釈は出てこない。右表現を素直に解釈する限り、「ユニバーサルジョイントは例えば三個の回転軸を備えた接手、又はその他の……の接手をいう」ということになるはずである。

2  被告の主張2について

(一) 被告は、原告ウインドサーフインは、本件発明の特許請求の範囲の訂正の過程において、特許請求の範囲としてのマストの檣根部分を、本件明細書の実施例に記載され、かつ、図面に示されたとおりの構造のもの、すなわち、メカニカルな構造の継手に限定し、これを自ら「ユニバーサルジョイント」と呼んでいるのであると主張し、その根拠として、訂正審判請求書の二箇所の記載を引用している。ところで、被告があげている前段の訂正箇所は、発明の詳細な説明の項の発明の構成に関する記載の訂正であり、訂正前の記載である「使用者を支持するようになつた乗物の本体装置と、前記本体装置と旋回自在に協働して風を推進力として受け入れるようになつた風力推進装置を包含する風力推進機を提供する。前記風力推進装置の位置は使用者によつて制御することができ且つこのような制御を行わないとき旋回抵抗力が殆んどなくなる。」(本件公報一頁2欄一八行ないし二四行)を「本発明は、……円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることできるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置を提供する。」(本件訂正公報三頁右欄一行ないし一二行)に訂正したものである。ところで、右訂正について、訂正審判請求書一四頁において、風力推進手段について、その構成が原本の発明の詳細な説明の欄において実施例として記載され、かつ、添付図面に示されたとおり「……(訂正文)……」であることを特許請求の範囲中で明らかにすることは、(原本の特許請求の範囲に風力推進装置として記載されていた)上記風力推進手段の構成を限定するものであり、この限定は特許請求の範囲の減縮に該る、と述べているのであつて、ユニバーサルジョイントの構成を特定の実施例に限定する、とは述べていない。そして、この点について実施例をみると、訂正後の明細書(本件明細書)に記載されている「ユニバーサルジョイント」の実施例は、訂正前の明細書(当初の明細書)の発明の詳細な説明の項に記載されている「ユニバーサルジョイント」の二つの実施例と同一の(三個の回転軸線を備えた接手、使用者が操作しないとき風力推進手段を殆ど自由浮動状態にすることができるような接手であり、いずれも、帆を波乗り板上で回転及び起伏させることができるように円柱を波乗り板に連結する接手であり、また、添付図面に示されているのは、訂正の前後を問わず、右の二つの実施例の一つである(三個の回転軸線を備えた接手)である。この例は、使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手の一例でもある。それらは、共通して、帆を波乗り板上で回転及び起伏させることかできるように円柱を波乗り板に連結する接手である。訂正審判請求において、風力推進装置の限定、ひいては、特許請求の範囲の減縮を図るとき、厳格な訂正の要件を満たすためには、減縮事項は、訂正前の発明の詳細な説明及び図面の記載上の根拠に基づくものでなければならない。右の根拠について、訂正審判請求書において、「発明の詳細な説明の欄において実施例として記載されかつ添付図面に示されたとおり」と述べたからといつて、特許請求の範囲の減縮が、訂正審判請求書で主張された風力推進手段の限定に留まらず、「ユニバーサルジョイント」をその一構造例(すなわち、メカニカルな構造の継手)に限定したものであるとすることはできない。被告の主張は、右の訂正審判請求書の字句にのみ拘泥した根拠のない解釈である。また、被告の主張は、訂正の前後を通じて、右のように、実施例に何ら変更がない点及び文理的にもまた実質的にも、特許請求の範囲に記載の「ユニバーサルジョイント」と発明の詳細な説明の項に記載の「ユニバーサルジョイント」の実施例との間に齟齬、矛盾及び広狭の差もないことを無視又は看過したものであり、正当でない。

次に、被告があげている後段の訂正箇所は、発明の詳細な説明の項の実施例に関する記載の訂正に係るものである。ところで、訂正前の記載は、「第1図を参照すれば波乗り板10と円柱12と三角形の帆14とブーム16、18とを包含する風力推進装置が図示されている。」(本件公報二頁三欄一九行ないし二一行)であつた。この記載は、特許請求の範囲を訂正して、風力推進手段は波乗り板と共に風力推進装置の二大構成要素であること、前者の風力推進手段は一対のブームとユニバーサルジョイントとを備えることを明確にしたことに伴い、特許請求の範囲に記載の構成を有する風力推進装置と、実施例に記載の構成を有する風力推進装置との対応関係を明瞭にするために、右の訂正前の記載を「第1図を参照すれば使用者を支持する波乗り板10と、推進力として風を受け入れる風力推進手段であつて円柱12と三角形の帆14と一対のブーム16、18と円柱12を波乗り板10に回転及び起伏自在に連結する三軸線ユニバーサルジョイント36とを備える風力推進手段とを包含する風力推進装置が図示されている。」(本件訂正公報三頁右欄下から四行ないし四頁左欄三行)に訂正したものである。したがつて、訂正審判請求書にいう「実施例に記載の構造」とは、風力推進装置の構造のことであることは明らかである。訂正審判請求において、訂正後の特許請求の範囲に記載の風力推進装置の構成と発明の詳細な説明の項の実施例に記載の風力推進装置の構成とか対応しない結果となる場合、当然に、厳格な訂正審判の審理において、訂正は許可されないことになる。その対応関係維持のために、第1図は、波乗り板と、一対のブーム及びユニバーサルジョイントを備える風力推進手段を包含する風力推進装置を示すものであることを記載の上で明瞭にすることか必要であるので、右の訂正により、特許請求の範囲の記載との対応関係を明瞭にしたのである。訂正の目的は、特許請求の範囲の訂正に伴う発明の詳細な説明の項の不明瞭な記載(正確には、特許請求の範囲の記載を訂正することによつて不明瞭化する記載)の釈明にあることを請求理由として明らかにしたものである。右のとおりであるから、この訂正の目的を述べるについて、「……訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により構成される風力推進装置は実施例に記載の構造を備える風力推進装置である……」と記述したからといつて、被告主張のように、特許請求の範囲を本件明細書の実施例に記載され、かつ、図面に示されたとおりの構造のもの、すなわち、メカニカルな構造の継手に限定したことにはならない。

(二) 被告は、訂正前の特許請求の範囲におけるマストの檣根座部分は、単に『旋回防止力を失う』とされているだけで、メカニカルな構造のものに限定されてはいなかつたし、また、第一次訂正審判請求の特許請求の範囲におけるマストの檣根座の部分は、『風力推進手段を殆んど自由浮動状態にする継手』とされており、ここでも、メカニカルな構造のものだけに限定されていなかつたが、第二次訂正審判請求の特許請求の範囲におけるマストの檣根座部分は、一転してメカニカルな構造のもの、すなわち、『ユニバーサルジョイント』に限定されているのである、と主張している。しかし、被告の主張は、「ユニバーサルジョイント」とは、メカニカルな構造のものであるとの独断に基づくものであり、その理由がないことは、既に述べたとおりである。なお、被告は、右の主張に関連して、継手をメカニカルな構造のもの、すなわち、「ユニバーサルジョイント」に限定し、ダービーの発明のマストの檣根座部分と同一と判断されることを免れようとしたものと考えられる旨主張しているか、ダービーの発明は、風力推進手段を殆んど自由浮動状態にする接手も、被告のいうメカニカルな構造のものも、発明の構成要素としてはいない。換言すれば、ダービーの発明は、本件発明の構成要件である帆を波乗り板上で回転及び起伏させることができるように円柱を波乗り板に連結するユニバーサルジョイントを必要とする技術的思想のものではないのである。

(三) 被告は、原告ウィンドサーフィンが第二次訂正審判請求時において、「ユニバーサルジョイント」という言葉をメカニカルなものを意味するとして用いたことは、次の点からも明らかであるとして、(1)株式会社プロが提起した無効審判請求事件の第二答弁書の記載、(2) 株式会社スリーエスに対して提起した特許権侵害排除請求事件における昭和五七年一〇月一二日付準備書面の記載、及び(3)一九八三年版カタログの記載を掲げている。しかしながら、右(1)ないし(3)の記載は、原告ウィンドサーフィンか第二次訂正審判請求時において、「ユニバーサルジョイント」という言葉をメカニカルなものを意味するとして用いたことを裏付けるものではない。まず、右(1)の記載は、被請求人である同原告の主張ではなく、審判請求人である株式会社プロが提出した昭和五五年一〇月九日付審判請求書二九頁に記載された証拠方法の表示及び審判請求人提出の昭和五六年一一月一一日付手続補正書二二頁末行ないし二三頁三行に記載された証拠方法の表示をそのまま引用したものである。このような引用をもつて、同原告の主張とみることはできない。

次に、右(2)の記載には、「……風力推進手段か自由に三六〇度揺動するジョイント」のジョイントを「ユニバーサルジョイント」と記載すべきところを、単に、「ジョイント」と記載したことから、あるいは、誤解がありうるのかもしれないが、当該特許権侵害排除請求事件を提起した当時、特許請求の範囲は訂正許可前のものであり、また、特許請求の範囲の記載は訂正後といえども、前述のとおり、ユニバーサルジョィントをいわゆる「メカニカルなもの」に限定してはいないので、当該記載は、これを素直に読めば、明細書の実施例の記載に照らし、「……使用者が操作しないとき推進手段を殆んど自由浮動状態にする構造のもの、すなわち、風力推進手段が自由に三六〇度揺動するユニバーサルジョイントであれば、ゴム製ユニバーサルジョイント等でも差支えない。」の意味であることは明らかである。

最後に、右(3)の記載であるが、この種の文書は、通常、コピーライターにより作成されるものであり、その目的からして、技術的、法律的に厳正に作成されるわけではない。とりわけ、”History & topics”のタイトルのもとに編集された記載部分は、ボードセーリングの愛好者に話題を提供することに主眼をおいているものである。このことから、「……実際にはロープではなく、ユニバーサルジョイントを使いました。」との記載にしても、そのロープをどのように使用したかについては記載がないし、また、それがユニバーサルジョイントの機能を果たすように構成しえなかつた場合には、ユニバーサルジョイントと呼称することはできないのであるから、この記載をもつて、ロープを使用したものは、すべてユニバーサルジョイントではない、などというのは、誤つた即断である。また、「なぜ……あのガチヤガチヤと大げさなユニバーサルジョイントを使い、カツコいいゴム製のものを使わないのか。」の記載も、ゴム製のものはユニバーサルジョイントではない、とはいつていないのであるから、当該記載から「ユニバーサルジョイント」と「ゴム製ジョイント」とは異なるものと認識していることは明らかである、などとはいえない。更に、「現在、販売しているユニバーサル・ジョイント」を「正確には、メカニカル・フレキシブル・ジョイントという」からといつて、何故、いつ販売しても、「ユニバーサルジョイント」は「メカニカル」な構造のものでなければならないということにはならない。偶々、「現在販売している」ユニバーサルジョイントかそのような種類のものであつたにすぎないのであり、被告の主張は、短絡にすぎる。

第三  証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求の原因1(一)の事実(原告ウィンドサーフィンが本件特許権を有していたこと)は、当事者間に争いがない。

同1(二)の事実(原告勝和機工の実施権)については、成立に争いのない(本件においては、事実認定に供した甲号各証及び乙号各証は、いずれも成立について当事者間に争いがないので、以下書証の成立の真正についての摘示を省略する。)甲第一号証(特許登録原簿記録事項証明書)によれば、原告勝和機工は、本件特許権について、原告ウィンドサーフィンから、昭和四九年八月二〇日、地域を日本国全域、期間を同日から一〇年間とする専用実施権の設定を受け、昭和五六年三月二七日にその登録がされたこと、その後、昭和五九年八月二〇日、地域を日本国全域、期間を同日から特許権存続期間満了(昭和六一年五月三一日)までとする専用実施権の設定を受け、昭和六一年一月二七日にその登録がされたことが認められる。

二  請求の原因2の事実(本件明細書の特許請求の範囲の記載)は当事者間に争いがなく、右争いのない事実と甲第二号証(本件訂正公報)によれば、本件発明の構成要件は、請求の原因4(一)(1)のとおりであると認められる。

三  請求の原因3の事実(被告による被告製品の販売)については、「ゴム・ジョイントk」を除き、被告が、原告ら主張の期間、別紙目録の図面及び説明書記載の被告製品を販売したことは、当事者間に争いがない。

四  そこで、被告製品が、仮に原告ら主張のとおりのものであるとして、本件発明の技術的範囲に属するか否かについて判断する。

1  原告らは、本件発明の構成要件Cの「ユニバーサルジョイント」は、本件明細書の特許請求の範囲において「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」と定義され、発明の詳細な説明の項においても、特定の実施例において「三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」と定義されているものであるから、被告製品のゴム・ジョイントkは本件発明のユニバーサルジョイントに該当し、したがつて、被告製品は、本件発明の構成要件Cを充足する旨主張し、これに対して、被告は、本件発明のユニバーサルジョイントとは、実施例に示されているようないわゆる機械的構造の継手を意味するから、被告製品のゴム・ジョイントkはこれに該当せず、したがつて、被告製品は、右構成要件Cを充足しない旨主張するので、この点について審案する。

2  甲第二号証によれば、次の各事実を認定することができる。

(一)  本件明細書において「ユニバーサルジョイント」の語が使用されている箇所としては、まず、特許請求の範囲の項において、「……該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置。」(五頁右欄「七行ないし二一行。本件訂正公報における頁行を示す。この項において以下同じ。)との記載があるほか、発明の詳細な説明の項において、(1)「本発明は、使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置を提供する。」(三頁右欄一行ないし一二行)、(2)「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて波乗り板に風力推進手段の円柱が連結されている。」(三頁右欄一三行ないし一七行)、(3)「第1図を参照すれば使用者を支持する波乗り板10と、推進力として風を受け入れる風力推進手段であつて円柱12と三角形の帆14と一対のブーム16、18と円柱12を波乗り板10に回転及び起伏自在に連結する三軸線ユニバーサルジョイント36とを備える風力推進手段とを包含する風力推進装置が図示されている。」(三頁右欄三三行ないし四頁左欄三行)、(4)「第2図を参照すれば円柱12が三軸線ユニバーサルジョイント36によつて前記台29に連結されている。前記ジョイント36は全体を不銹銅で作り且つ木ねじ37によつてベース27の両側に保持されている締め板38、40によつて円柱12に取付けられている。」(四頁左欄二〇行ないし二五行)、(5)「操作時に、使用者は円柱12をユニバーサルジョイント36にて取付けてある位置の背後において波乗り板10の上面28に立ち、一方のブーム16又はブーム18をにぎる。」(四頁右欄四四行ないし五頁左欄二行)、(6)「本発明によれば、風力推進手段をそのユニバーサルジョイントを介して回転及び起伏自在に波乗り板に連結したことにより、突風又は激風時に風力推進手段のブームから手を離せば、該風力推進手段はその帆に風を受けない方向へ倒れ、波乗り板を安定させ、その転ぶくを防ぐことができる。」(五頁右欄四行ないし九行)との各記載があり、また、図面の簡単な説明の項において、第2図の説明として、「第2図は第1図の線2-2における帆の回転及び起伏に使用するユニバーサルジョイントの断面図」(一頁左欄二行ないし四行)との記載がある。図面としては、風力推進装置の外観図である第1図(六頁)中に三軸線ユニバーサルジョイント36が記載されているが、同図ではその構造は不明であり、第2図(五頁)は、三軸線ユニバーサルジョイントの断面図であつて、その詳細な構造を明らかにしている。

(二)  本件明細書において、「ユニバーサルジョイント」として具体的にその構造が示されているものは、実施例である三軸線ユニバーサルジョイントのみであつて、その構造については、願書添付の図面に記載されており(本件訂正公報五頁2図)、また、その説明として、発明の詳細な説明の項において、「第2図を参照すれば円柱12が三軸線ユニバーサルジョイント36によつて前記台29に連結されている。前記ジョイント36は全体を不銹銅で作り且つ木ねじ37によつてベース27の両側に保持されている締め板38、40によつて円柱12に取付けられている。前記締め板38、40はベース27の幾分下までの延長部42、44を備えている。この延長部42、44は不銹鋼製管46の短い区画の両側に配置されている。1/4インチ(六・三mm)直径の頭付きピン48が前記締め板の延長部42、44の孔50、52の中をのび、頭付きピン48のコツタ孔56に挿入されたコツタピン54によつて回転自在に取付けられている。不銹鋼の板で作つたクレビス58が、その側面60(その中の一つだけを図示してある)を締め板の延長部42、44の下に横方向になるよう、管46上に配置されている。1/4インチ(六・三mm)直径の頭付きピン62(第2図に断面で示す)がクレビスの側面と管46の孔64を貫通しており且つ頭付きピン62のコツタ孔に入つたコツタピン(図示せず)によつて回転自在に取付けられている。前記頭付きピン48、62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、ベース27は各回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12を各回転軸のまわりに回転させ、波乗り板10で起伏させることができる。長さ3インチ(七六・二mm)、直径1/4インチ(六・三mm)の丸頭のねじ68がクレビス58のベース71の孔70を通りそこから座金72をその下の台29のほぞ孔78に入つているナツト74とロツクナツト76を通り、これによつてクレビス58をダガボード20に回転自在に取付けてある。ねじ68がクレビス58のベースを充分な遊びをおいて保持し、クレビス58を座金72に接触して回転可能としている。前記ねじ68は垂直の回転軸を構成し、ベース27はこの回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12をこの回転軸のまわりに波乗り板10で回転させることができる。」(本件訂正公報四頁左欄二〇行ないし同頁右欄一五行)と記載されている。

3  右認定の事実によれば、本件明細書の特許請求の範囲の項には、「該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイント」との記載があるところ、原告らは、右記載をもつて本件発明における「ユニバーサルジョイント」の構成、作動態様及び作用効果が明確に定義されていると主張する。しかし、右記載は、「ユニバーサルジョイント」の作用ないしは機能を説明したにすぎないものであつて、これがいかなる構造のものであるか、その構成については何ら説明するものではない。

次に、発明の詳細な説明の項においては、まず、右同様の記載(前記2の認定事実(一)中の(1)の記載)があるが、この記載が「ユニバーサルジョイント」の構成を何ら説明するものではないことは、既に述べたのと同様である。このほかに、「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて波乗り板に風力推進手段の円柱が連結されている。」との記載(同(2)の記載)があり、右記載について、原告らは、「三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」といつのが「ユニバーサルジョイント」の特定の実施例であることを示しており、これによつて本件発明における「ユニバーサルジョイント」の構成を明確にしている旨主張し、これに対して、被告は、右記載は、実施例として「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手」と「使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」との二種類の継手があることを示しているものであり、「ユニバーサルジョイント」はこのうち前者を意味するものである旨主張する。右記載において示された「ユニバーサルジョイント」の実施例がいかなる範囲のものを指すかについての判断はしばらくおくとしても、仮に原告ら主張のように「三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」というのが「ユニバーサルジョイント」の特定の実施例であるとしたところで、右記載からは、「ユニバーサルジョイント」の実施例として「三個の回転軸線を備えた接手」、すなわち、いわゆる三軸線ユニバーサルジョイント(その構造については、前認定のとおり、発明の詳細な説明の項及び図面において明らかにされている。)が含まれることは明らかとなるものの、「又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」については、その作用ないしは機能を述べるだけで、具体的にどのような構成のものがこれに当たるかは一切明らかでない(前認定のとおり、本件明細書においては、三軸線ユニバーサルジョイントのほかには具体的な構成を明らかにする記載は、一切存在しない。)。また、「風力推進手段をそのユニバーサルジョイントを介して回転及び起伏自在に波乗り板に連結したことにより、」との記載(同(6)の記載)についても、同様に、この記載によつては、「ユニバーサルジョイント」の作用ないしは機能は明らかとされているが、その構成は一切明らかでない。発明の詳細な説明の項におけるその余の「ユニバーサルジョイント」の記載(同(3)、(4)、(5)の各記載)は、いずれも特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントの構造を説明するものである。

また、図面の簡単な説明の項において、第2図の説明として、「ユニバーサルジョイント」の語は用いられているものの、第2図においてその構造が示されているのは、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントである。

そして、前認定のとおり、本件明細書において「ユニバーサルジョイント」の語が使用されている箇所は以上ですべてであつて、また、「ユニバーサルジョイント」の実施例についても、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントの構造が明らかにされているだけであつて、それ以外の継手について、その構造を明らかとするような説明文も図面も一切存在しない。

右のとおり、本件明細書において用いられている「ユニバーサルジョイント」の語については、右に認定した以上に、右明細書上においてその内容ないし構造が説明あるいは図面によつて明らかにされているものとはいえない。

以上によれば、本件明細書においては、特許請求の範囲はもちろん、発明の詳細な説明の項及び図面を子細に検討しても、「ユニバーサルジョイント」については、風力推進手段を回転及び起伏自在に波乗り板に連結する作用ないしは機能を有するものであることが明らかにされているだけであつて、その構成については、その実施例として、唯一、三軸線ユニバーサルジョイントの構造が説明及び図面によつて示されているにすぎない。

4  そして、他方、被告製品は、本体装置(ボード部)aとマストcとがゴム・ジョイントkによつて連結されており、ゴム・ジョイントkの構造は、別紙目録第2図及び図面の説明の項並びに同目録構造の項4記載のとおりである、というのである。

5  そこで、被告製品におけるゴム・ジョイントkを本件明細書において「ユニバーサルジョイント」の実施例としてその構造が明らかにされている三軸線ユニバーサルジョイントと比較すると、右三軸線ユニバーサルジョイントは、前認定(前記2(二)記載)のとおり、頭付きピン48により円柱12と管46とを連結し、頭付きピン48と直交する頭付きピン62により管46とクレピス58とを連結し、更にこれを丸頭のねじ68により回転可能に波乗り板10に取り付ける方法により風力推進手段と波乗り板を連結するものであつて、頭付きピン48と頭付きピン62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、円柱12を各回転軸のまわりに回転可能とすることを通じて、波乗り板10上で起伏させることを可能としているが、他方、被告製品のゴム・ジョイントkは、マスト受部k1と、ゴム製屈曲部k2と、ボード結合部k3とからなり、マスト受部k1は、ピンqを回転軸として、回転可能となつている、というのであつて、ゴム製屈曲部k2の材質自体の特性である弾性を利用することによつて前後左右の方向への屈曲傾斜を可能としているものであり、前記三軸線ユニバーサルジョイントにおける相互に直交する水平の二軸に相当する構造は存在しない。右によれば、被告製品におけるゴム・ジョイントkと本件明細書における三軸線ユニバーサルジョイントとでは、風力推進手段を本体装置上で起伏自在とする構成において、技術的思想を異にするものというべきである。

6  そして、前述のとおり、本件発明における「ユニバーサルジョイント」について、本件明細書においてその構成が明らかにされているのは、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントだけであることからすれば、少なくとも、被告製品におけるゴム・ジョイントkのように、構成部材の材質の弾性を利用することによつて前後左右の方向への屈曲傾斜を可能とする構造については、本件明細書においてその技術事項の開示があるものと認めることができない。

したがつて、被告製品のゴム・ジョイントkは、本件発明の構成要件Cの「ユニバーサルジョイント」に該当するものとはいえない。

7  このことは、次の点からも明らかである。

すなわち、甲第八号証によれば、当初の明細書の特許請求の範囲の項には、「1 使用者を支持するようになつた本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協働し且つ推進力として風を受け入れるようになつた風力推進装置とを包含し、前記推進装置の位置が前記使用者によつて制御でき、前記推進装置が使用者の不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。」(本件公報三頁6欄一四行ないし一九行)と記載されていて、「ユニバーサルジョイント」の語は用いられておらず、発明の詳細な説明の項には、前記2の認定事実(一)の(2)とほぼ同一の後記記載(同一頁2欄二五行ないし二九行)、同(4)と同一の記載(同二頁3欄三八行ないし四三行)及び同(5)と同一の記載(同三頁5欄五行ないし八行)はあるものの、同(1)、(3)及び(6)に対応する記載はいずれもなく、他に「ユニバーサルジョイント」の語を用いた記載はない。図面の簡単な説明の項には前記2の認定事実(一)とほぼ同一の記載(同一頁1欄二〇行ないし二二行)があり、願書添付の図面についても、同(一)と同一の図面であることが認められる。

右のとおり、当初の明細書においては、特許請求の範囲の項に「ユニバーサルジョイント」の語はなく、また、前記2の認定事実(一)の(4)及び(5)と同一の記載中の「ユニバーサルジョイント」は、いずれも特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントを意味するものである。したがつて、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントを離れての「ユニバーサルジョイント」の語は、前記2の認定事実(一)の(2)とほぼ同一の記載である「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて乗物本体に前記推進装置が連結されている。」との記載部分だけに存在することになる。そこで、右部分において「ユニバーサルジョイント」の語の意味する内容を検討するに、まず、右記載中の、「三個の回転軸線を備えた接手」と「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」との関係については、後者は具体的な構造を離れて抽象的な作用ないしは機能を説明する記載であつて、その意味する範囲は広範であり、前者も包含するものである。このように、「三個の回転軸線を備えた接手」が「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」に包含される関係にある以上、両者が、共に「ユニバーサルジョイント」の例示として、接続詞「又は」によつて結ばれる並列的な関係に立つものと解することはできない。そして、前記のような両者の内容的な関係にかんがみれば、通常の用語法としては、むしろ、「ユニバーサルジョイント」の例示としては「三個の回転軸線を備えた接手」のみであつて、「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手」と、それ以外の「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手とが、接続詞「又は」によつて並列的に結ばれているものと解するのが相当である。そうであれば、当初の明細書においては、「ユニバーサルジョイント」について、その例示として「三個の回転軸線を備えた接手」、すなわち、三軸線ユニバーサルジョイントが挙げられているだけであつて、「ユニバーサルジョイント」以外にも「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」が存在することになる。右のとおり、「ユニバーサルジョイント」は、「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」のすべてではなく、そのうちの一部を指すものである以上、その意味する範囲は、例示されている唯一の例である三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する構造のもの、すなわち、相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものというベきである。

そして、当初の明細書の特許請求の範囲の項の記載は、前記のとおりであつて、そこでは風力推進装置と本体装置とを連結する継手については何ら触れられていないから、右記載からは、継手として「ユニバーサルジョイント」を用いたものであつても、それ以外のものを用いた場合であつても、特許請求の範囲に含まれ得ることになる。

当初の明細書における「ユニバーサルジョイント」の意味が右のようなものである以上、昭和五八年七月二七日付訂正審判請求に基づく訂正後の本件明細書においても、「ユニバーサルジョイント」の語は、他に特段の事情のない限り、右と同一の内容を意味するものとして理解すべきものというべきである。そして、本件明細書において、「ユニバーサルジョイント」の語について、その内容を定義した記載が新たに加えられたような事情のないことは、既に認定した事実により明らかであるから、結局、本件明細書における「ユニバーサルジョイント」の語は、当初の明細書におけるのと同様、三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する構造のもの、すなわち、相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものというべきである。

したがつて、前記訂正において、「ユニバーサルジョイント」の語を特許請求の範囲に持ち込むことにより、風力推進手段と本体装置とを連結する手段の構造をも構成要件の一つとした本件発明は、訂正前の当初の明細書における特許請求の範囲を減縮したものというべきであり、連結手段として、「使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」のうち前記のような「ユニバーサルジョイント」を用いているものだけが、特許請求の範囲に含まれるというべきである。

そして、被告製品において風力推進手段と本体装置とを連結しているゴム・ジョイントkが、三軸線ユニバーサルジョイントないしはこれに類する構造のもの、すなわち、相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものに該当しないことは、前述のとおりであるから、被告製品は、本件発明における「ユニバーサルジョイント」を備えるものとはいえないことになる。

8  右に述べたところは、本件発明の出願経過及び訂正審判の経過をみるとき、一層明らかとなる。

すなわち、甲第一、第二号証、第七号証の一、第八号証、乙第一三、第一四号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実を認定することができる(この認定を左右するに足りる証拠はない。)。

(一)  昭和四四年三月一一日の本件発明の特許出願の願書に最切に添付した明細書(当初の明細書)の特許請求の範囲の項の記載は、「1 使用者を支持するようになつた本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協働し且つ推進力として風を受け入れるようになつた風力推進装置とを包含し、前記推進装置の位置が前記使用者によつて制御でき、前記推進装置が使用者の不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。」(本件公報三頁6欄一四行ないし一九行)というものであり、同明細書の発明の詳細な説明の項及び願書添付の図面の記載の内容は、前記7において認定したとおりである。

(二)  本件特許権が昭和四七年一月一一日に登録された後の昭和五五年一〇月一一日、株式会社プロは、本件特許権について無効審判請求をした(昭和五五年審判第一八八一四号。プロ事件)。

(三)  右プロ事件の無効審判請求の後である昭和五七年二月二六日、原告ウインドサーフィンは、本件特許権につき最初の訂正審判請求(昭和五七年審判第三三二〇号。第一次訂正審判請求)をしたが、その内容は、特許請求の範囲の項の記載を、「使用者を支持するようになつた本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協動し、且つ推進力として風を受け入れるようになつた風力推進手段とを包含し、前記風力推進手段は、本体装置に枢着した円柱と、前記円柱を本体装置に連結し、且つ使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にする継手と、帆および帆をピンと張るため円柱上に横方向に取付け、手で保持するようになつたアーチ状に連結される一対のブームを包含し、前記風力推進手段の位置が使用者によつて制御でき、前記風力推進手段が使用者不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。」と訂正するというもので、当初の明細書の発明の詳細な説明の項及び願書添付の図面の記載については何らの訂正も請求していない。

(四)  原告ウインドサーフィンは、昭和五八年七月二七日、前記第一次訂正審判請求を取り下げ、同日、新たな訂正審判請求(昭和五八年審判第一六五七七号。第二次訂正審判請求)をしたが、その内容は、当初の明細書の特許請求の範囲の項の記載を、本件明細書記載のとのおりの「1 使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置。」(本件訂正公報五頁右欄一一行ないし二一行)と訂正し、発明の詳細な説明の項の記載についても、本件明細書記載のとおりの内容に訂正するというものであつた(図面についての訂正は請求していない。)。

そして、右第二次訂正審判請求の訂正審判請求書において、原告ウインドサーフインは、右の特許請求の範囲の項の記載の訂正は、「下記理田により、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とする」(同訂正審判請求書一一頁一七行ないし一八行)ものであるとしたうえ、「C)さらに、上記風力推進手段について、その構成が原本の発明の詳細な脱明の欄において実施例として記載されかつ添付図面に示されたとかりの「円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備える」ものであることを特許請求の範囲の記載中で明らかにすることは、(原本の特許請求の範囲に風力推進装置として記載されていた)上記風力推進手段の構成を限定するものであり、この限定は特許請求の範囲の減縮に該る。d)乗物の一例として波乗り板が含まれること、及び風力推進手段が円柱、帆、一対のブームおよびユニバーサルジョイントを備えることは、原本の発明の詳細な説明の欄に記載され、また、添付図面を参照しての実施例の説明に示されており、従つて、本体装置及び風力推進手段を上記のように限定することは、原本の特許請求の範囲に記載されていた構成事項を、原本の発明の詳細な説明の欄に記載されていた事項に又はその事項により特定するものであると共に、これによる特許請求の範囲の訂正の前後にかいて発明の目的は同一であるから、上記の訂正による特許請求の範囲の減縮は、特許請求の範囲の実質変更には該らない」(同訂正審判請求書一四頁二行ないし一五頁一〇行)から、右訂正は、「特許請求の範囲における明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とし、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない」(同訂正審判請求書一五頁一一行ないし一四行)と主張している。更に、当初の明細書の発明の詳細な説明の項の記載の訂正に関しても、「使用者を支持するようになつた乗物の本体装置と、前記本体装置と旋回自在に協動して風を推進力として受け入れるようになつた風力推進装置を包含する風力推進機を提供する。前記風力推進装置の位置は使用者によつて制御することができ且つこのような制御を行わないとき旋回抵抗力が殆んどなくなる。」(本件公報一頁2欄一八行ないし二四行)を「本発明は、使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進装置を提供する。」(本件訂正公報三頁右欄一行ないし一二行)とする訂正につき、右「訂正は、本発明が提供するのは訂正後の特許請求の範囲に記載された構成による風力推進装置であるところ、原本の記載のままでは対応関係が不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。よつて、この訂正は特許請求の範囲の減縮と明瞭でない記載の釈明とを目的とする。」(同訂正審判請求書二一頁一〇行ないし一五行)と主張し、「波乗り板10と円柱12と三角形の帆14とブーム16、18」(本件公報二頁3欄一九行ないし二〇行)を「使用者を支持する波乗り板10と、推進力として風を受け入れる風力推進手段であつて円柱12と三角形の帆14と一対のブーム16、18と円柱12を波乗り板10に回転及び起伏自在に連結する三軸線ユニバーサルジョイント36とを備える風力推進手段とを」(本件訂正公報三頁右欄三三行ないし四頁左欄二行)とする訂正につき、右「訂正は、訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により構成される風力推進装置は実施例に記載の構造を備える風力推進装置であるところ、その対応関係が原本の記載では不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。よつて、この訂正は特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする。」(同訂正審判請求書二三頁一六行ないし二四頁二行)と主張し、「取付けられている。」(本件公報二頁4欄一三行ないし一四行)の次に「前記頭付きピン48、62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、ベース27は各回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12を各回転軸のまわりに回転させ、波乗り板10で起伏させることができる。」(本件訂正公報四頁左欄四二行ないし同頁右欄二行)を加え、「回転可能にしている。」(本件公報二頁4欄二二行ないし二三行)の次に「前記ねじ68は垂直の回転軸を構成し、ベース27はこの回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12をこの回転軸のまわりに波乗り板10で回転させることができる。」(本件訂正公報四頁右欄一一行ないし一五行)を加えることは、「それぞれ、訂正後の特許請求の範囲に記載された風力推進装置を構成する風力推進手段の円柱がユニバーサルジョイントにより波乗り板に連結されることにより、帆が波乗り板上で起伏と回転とを自在とするが、実施例に記載の風力推進装置の構造によれば如何にして帆がそれらを自在にするかにつき理由を明らかにすべきところ、これがされていない原本の記載では不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。よつて、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする。」(同訂正審判請求書二五頁三行ないし一三行)と主張している。

(五)  その後、プロ事件について、昭和六〇年八月一二日、請求人株式会社プロは、右無効審判請求を取り下げた。

(六)  そして、原告ウィンドサーフィンの右第二次訂正審判請求が認められて、昭和六〇年一一月二〇日、訂正審決がされた。右訂正審決によつて訂正された明細書が、本件明細書である。

右認定の事実によれば、原告ウィンドサーフィンがした第一次訂正審判請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の項においては、本体装置と風力推進手段に含まれる円柱との連結手段として、「前記円柱を本体装置に連結し、且つ使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にする継手」の語が用いられている。そして、発明の詳細な説明の項については、当初の明細書(本件公報)の記載と同一の記載について何らの訂正の請求もされていないから、右訂正明細書の発明の詳細な説明の項においても、「ユニバーサルジョイント」の語は、特定の実施例である三軸線ユニバーサルジョイントを意味するものを除けば、「特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて乗物本体に前記推進装置が連結されている。」との記載部分だけに存在することになる。そして、発明の詳細な説明の項の右記載部分における「ユニバーサルジョイント」の語の意味する内容を検討するに、右記載部分における「三個の回転軸線を備えた接手」と「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」の内容的な関係に照らせば、通常の用語法としては、「ユニバーサルジョイント」の例示としては「三個の回転軸線を備えた接手」のみであつて、「ユニバーサルジョイント例えば三個の回転軸線を備えた接手」と、それ以外の「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」とが、接続詞「又は」によつて並列的に結ばれているものと解するのが相当であつて、結果、「ユニバーサルジョイント」以外にも「使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」が存在するというべきである。右は、当初の明細書について既に述べたところ(前記7)と同様である。このことは、更に、第一次訂正審判請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の項において、前記のとおり「前記円柱を本体装置に連結し、且つ使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にする継手」の語が用いられていることからも明らかである。すなわち、仮に右訂正審判請求に係る訂正明細書の発明の詳細な説明の項に用いられている「ユニバーサルジョイント」の語が、「三個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手」をその実施例とする広い範囲の継手を意味するものであるとすれば、右訂正審判請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の記載においても、本体装置と風力推進手段に含まれる円柱との連結手段として、「ユニバーサルジョイント」の語を用いる(例えば、「前記円柱を本体装置に連結し、且つ使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にするユニバーサルジョイント」と記載する。)のが、むしろ当然である。しかるに、右訂正審判請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の項には、前認定のとおり、「前記円柱を本体装置に連結し、且つ使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由浮動状態にする継手」と記載されているのであつて、このことからしても、右訂正審判請求に係る訂正明細書の発明の詳細な説明の項における「ユニバーサルジョイント」の語は、特許請求の範囲の項に記載された前記「継手」と一致するものではなく、むしろ、右「継手」よりも狭い範囲の継手を意味する語であると解するのが合理的である。そして、右「ユニバーサルジョイント」については、その構成が開示されているのが、唯一、実施例である三軸線ユニバーサルジョイントのみであることは、当初の明細書におけるのと同様であつて、結局、当初の明細書について述べたところ(前記7)と同様、右「ユニバーサルジョイント」は、三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する構造のもの、すなわち、相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起状を自在とする機械的構造のものを意味するものというべきである。

そして、原告ウィンドサーフィンは、プロ事件において本件発明の特許を無効とする審決がなされた後に、第一次訂正審判請求を取り下げて、第二次訂正審判請求をしたものであるところ、右第二次訂正審判請求において、特許請求の範囲の記載を「ユニバーサルジョイント」の語を含むものに訂正し、右訂正は「明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とする」ものであると主張している。当初の明細書における「ユニバーサルジョイント」の語及び第一次訂正審判請求に係る訂正明細書における「ユニバーサルジョイント」の語が、前記のとおり、三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものであるから、右第二次訂正審判請求書においても、「ユニバーサルジョイント」の語は、他に特段の事情のない限り、右と同一の内容を意味するものとして理解すべきものというべきである。そして、右訂正審判請求書において、「ユニバーサルジョイント」の語について、その内容を定義した記載が新たに加えられたような事情のないことは、既に認定した事実により明らかであるから、結局、右訂正審判請求書における「ユニバーサルジョイント」の語の意味するところは、当初の明細書及び第一次訂正審判請求に係る訂正明細書にかけるのと同様三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転による起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものというべきである。

したがつて、右第二次訂正審判請求に基づく訂正審決によつて、「ユニバーサルジョイント」の語を特許請求の範囲に持ち込むことにより、風力推進手段と本体装置とを連結する手段の構造をも構成要件の一つとした本件発明は、訂正前の当初の明細書における特許請求の範囲を減縮したものであり、連結手段として、前記のような「ユニバーサルジョイント」を用いているものだけが、特許請求の範囲に含まれるというべきである。

なお、第二次訂正審判請求書における「ユニバーサルジョイント」の語の意味する内容を前記のように解すべきことは、原告ウィンドサーフィンの、右訂正審判請求書における、発明の詳細な説明の項の記載の訂正に関する主張の内容に照らしても明らかである。すなわち、前記(四)で認定のとおかり、原告ウィンドサーフィンは、右訂正審判請求書において、発明の詳細な説明の項の記載の訂正に関し、「波乗り板10と円柱12と三角形の帆14とブーム16、18」(本件公報二頁3欄一九行ないし二〇行)を「使用者を支持する波乗り板10と、推進力として風を受け入れる風力推進手段であつて円柱12と三角形の帆14と一対のブーム16、18と円柱12を波乗り板10に回転及び起伏自在に連結する三軸線ユニバーサルジョイント36とを備える風力推進手段とを」(本件訂正公報三頁右欄三三行ないし四頁左欄二行)とする訂正につき、右「訂正は、訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により構成される風力推進装置は実施例に記載の構造を備える風力推進装置であるところ、その対応関係が原本の記載では不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。よつて、この訂正は特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする。」と主張し、更に、「取付けられている。」(本件公報二頁4欄一三行ないし一四行)の次に「前記頭付きピン48、62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、ベース27は各回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12を各回転軸のまわりに回転させ、波乗り板10で起伏させることができる。」(本件訂正公報四頁左欄四二行ないし同頁右欄二行)を加え、「回転可能にしている。」(本件公報二頁4欄二二行ないし二三行)の次に「前記ねじ68は垂直の回転軸を構成し、ベース27はこの回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12をこの回転軸のまわりに波乗り板10で回転させることができる。」(本件訂正公報四頁右欄一一行ないし一五行)を加えることは、「それぞれ、訂正後の特許請求の範囲に記載された風力推進装置を構成する風力推進手段の円柱がユニバーサルジョイントにより波乗り板に連結されることにより、帆が波乗り板上で起伏と回転とを自在とするが、実施例に記載の風力推進装置の構造によれば如何にして帆がそれらを自在にするかにつき理由を明らかにすべきところ、これがされていない原本の記載では不明瞭であるので、これを明瞭にするものである。よつて、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする。」と主張しているのである。右のとおり、「訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により構成される風力推進装置は実施例に記載の構造を備える風力推進装置である」と述べ、あるいは、「訂正後の特許請求の範囲に記載された……帆が波乗り板上で起伏と回転とを自在とするが、実施例に記載の風力推進装置の構造によれば如何にして帆がそれらを自在にするかにつき理由を明らかにすべきところ」と述べて、それぞれ、実施例である三軸線ユニバーサルジョイントについての記載を付加していることからすれば、結局、原告ウィンドサーフィンは、特許請求の範囲における「ユニバーサルジョイント」の作用をもたらすべき構成の開示としては、実施例である三軸線ユニバーサルジョイントの構造がこれに該当するものとして、第二次訂正審判請求をしたものというべきである。したがつて、第二次訂正審判請求書における右記載からも、右訂正審判請求書における「ユニバーサルジョイント」は三軸線ユニバーサルジョイントないしはせいぜいこれに類する相互に直交する水平の二軸のまわりの自由回転により起伏を自在とする機械的構造のものを意味するものというべきである。

9  以上によれば、たとえ、被告製品が原告ら主張のとおりのものであるとしても、被告製品は、本件発明の構成要件Cの「ユニバーサルジョイント」を備えておらず、構成要件Cを充足しないから、本件発明の技述的範囲に属しないものというべきである。

五  よつて、原告らの本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条及び九三条一項本文の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 若林辰繁 裁判官三村量一は、海外出張中のため署名捺印することができない 裁判長裁判官 清永利亮)

目録

別紙図面及び説明書に示すとおりの「風力推進波乗り装置(セイリングボード)」(商品名は別紙「商品名一覧表」に記載したとおり)

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

説明書

一 別紙図面の説明

(一) 第一図は風力推進波乗り装置(セイリングボード)の側面図、第2図はゴム・ジョイントの断面図である。

(二) 各図の符号は、次の各部材を示す。

本体装置(ボード部)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・a

セイル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・b

マスト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・c

ブーム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・d

ウインドウ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・e

バテン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・f

切欠・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・g

マストスリーブ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・h

ブームジョーアウト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・i

ブームジョーイン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・j

ゴム・ジョイント・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・k

フツトストラツブ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・l

テイル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・m

ダガボード・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・n

スケグ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・o

マスト受部・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・k1

ゴム製屈曲部・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・k2

ボード結合部・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・k3

ピン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・q

二 構造

1 波乗り板を形成する本体装置(ボード部)aの下面後方にはスケグoが装着されている。

2 本体装置(ボード部)aにはゴム・ジョイントkの下端部が結合され、ゴム・ジョイントkの上部にはマストcの下端部が嵌合されている。

3 マストcにはウインドウeを有するセイルbの一辺のマストスリーブ(筒状部)hが嵌装され、セイルbの両側には二本のブームdが配設され、二本のブームdはマスト側(イン側)及びセイル端側(アウト側)の所定の位置でブームジョーインj及びブームジョーアウトiによつて連結され、ブーム部のイン側はマストcに、アウト側はセイル先端部に固定されている。

4 ゴム・ジョイントkは、マスト受部k1と、ゴム製屈曲部k2と、ボード結合部k3とからなる。マスト受部k1は、ピンqを回転軸として、回転可能になつている。

三 作動態様

1 本体装置(ボード部)a上には使用者不在で、風力推進手段が旋回防止力を失い、水上に浮遊している状態から始まる。この状態においては、ゴム・ジョイントkは、その中間部分が屈曲し、ゴム・ジョイントkに嵌合されたマストcとマストcに装着されたセイルbは、水面上に倒れている。

2 使用者は、本体装置(ボード部)a上の所定の位置に立つてマストcを引き起こし、セイルbの片側に配設されたブームdを両手でにぎつて、マストcに装着されたセイルbの位置を制御する。

3 使用者は、両手でにぎつたブームdを押し、引き、回転させて風向きに対し、セイルbを所望の位置に制御し、セイルbに必要な風力を受け入れてボードを望ましい方向に進行させる。この場合、セイルbの装着されたマストcと嵌合するゴム・ジョイントkは、使用者が操作するブームdの動きに応じ、ゴム・ジョイントkの軸線を中心として回転運動をし、また、前後左右の方向に所定の角度で屈曲し、傾斜する。

4 本体装置(ボード部)aの下面に装着されたスケグoは、水中にあつてボードの直進性を保持している。

5 使用者は、ウインドウeを通して、反側の状況を知ることができる。

6 操縦中に、突然の強風が製つた場合など、転覆の危険が発生したときは、使用者は、ブームdから両手を放し、セイルbを風下に倒れさせて風力を回避する。

商品名一覧表

KING COBRA

PINTA COBRA

COPEX COBRA

ASTRA COBRA

COSTA ベガ

レース

〃 三七〇

キング

コペックス

アストラ

ノバ

ピンタ

アスカ

ファン 三三〇

〃 三五〇

〃 三二〇

ガン 二九〇

〃 三二〇

ラッド 二六〇

〃 二九〇

スラローム 三二〇

〃 二九〇

〃 二六〇

デビジョン Ⅱ

ダンデム 四八〇

訂正明細書

〈54〉風力推進装置

図面の簡単な説明

第1図は本発明の風力推進装置の外観図、第2図は第1図の線2-2における帆の回転及び起伏に使用するユニバーサルジョイントの断面図、第3図は第1図の線3-3におけるブームとブームとの間の円柱接合部の断面図、第4図は第1図の線4-4におけるブームとブームとの間の帆耳間接合部の断面図である。

発明の詳細な説明

本発明は風力推進装置に係る。

本発明が関係する分野は船特に帆船の分野である。

風力推進はボートや水上ボートばかりでなく波乗り板のような船や陸上乗物例えば水上ボートやそり、すなわち一般的に言えば任意の軽量な小型ボートの動力装置としても考えられてきた。普通は乗物に垂直に固定しているマストに帆を設けるか又は帆とマストを帆装置と制御機構の網細工にからませている。

帆を波乗り板に固定することによつてこの波乗り板としての楽しみは失われ且つ従来制御のために必要であつた熟練はもはや必要でなくなる。人々は軽量な帆船の速度と感じを得る代りに帆船を制御するに適当な熟練が必要となる。横ゆれに対する安定性がない波乗り板に帆を取付けることによつて突風や微風によつて波乗り板が転ぷくする問題が発生する。

故に従来は備えていなかつた風力推進手段を波乗り板に設け、この風力推進手段を設けることによつて波乗り板の元の乗心地や波乗り板を突風や微風下で転ぷくさせない制御特性を失わないようにすることが必要である。

本発明の目的は風に対する照応性と速度を増大し且つ波乗り板の従来の乗心地と従性すなわち制御特性を増強してそれから得られるたのしみを増すようになつた風力推進手段乗り板に取付けることである。本発明に、使用者を支持する本件装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを言み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い端線部で取付けられた帆と、前記円柱の方向に装置され、前記円柱及び帆を問に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることをとする、風力推進装置を提供する。

特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば3個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき風力推進手段を殆んど自由手動状態にすることができるような接手によつて波乗り板に風力推進手段の円柱が連結されている。

本発明は波乗り板にうまく利用できる。波乗り板のような横ゆれに対する安定性の低い船にせかせ装置を設けることができる。せかせと言う言葉は技術者に公知である中央板とダガボード(dagger-board)を含み.また安定性を増すために船体から平らに又はななめに水中に突入したその他の突起物をも含んでいる。

本発明は殆んどずべての操縦とかじとりを帆を通じて行い、かじやその他の操縦機構を設けても良いが無くてもよい。帆をあやつることによつて加速、方向転換、上手回しを行うことができる。しかし乍ら帆は回転及び起伏自在になつているから使用者が帆を保持して船を安定させねばならない。突風又は微風時に使用者は帆をせば、帆は直ちに風力を受けない方向に移動する。

第1図を参照すれば使用者を支持する波乗り板10と、推進力として風を受け人れる風力推進手段であつて円柱12と三角形の帆14と一対のブーム16,18と円柱12を波乗り板10に回転及び起伏自在に連結する三ユニバーサルジョイント36とを備える風力推進手段とを包含する風力推進装置が図示されている。前記波乗り板10はその開口22の中に挿入され且つその底部から斜めに突出したダガボード20をせかせとして備えている。前記ダガボード20の上部は波乗り板10の上面28を分越えてのび、あとから充分に説明するように円住12を枢着するための台29を提供している。

円柱12は丈夫な丸い細長いフアイバグラスの軸であり、この場合この軸は軽くするため中になつているが中な木や金属で作つても良く、その下端に円筒状の木製ベース27をくさび止めしてある。前記円住12は帆14の揺動自在マストとなり、且つ帆14の長い端線部31に沿つて上方に傾斜したへり30の中に挿入されている。前記帆14の底部は、円柱12に近い帆14の下端縁にあるアイレフト34の中に入つているロープ32によつて、前記円柱12に取付けられている。

第2図を参照すれば円柱12が三軸線ユニバーサルジョイント36によつて前記台29に連結されている。前記ジョイント36は全体を不綉綱で作り且つ木ねじ37によつてベース27の両開に保持されている締め板38、40によつて円柱12に取付けられている。前記締め板38、40はベース27の幾分下までの延長部42、44を備えている。この延長部42、44は不綉綱製管46の短い区の両側に配置されている。1/4インチ(6.3mm)直径の頭付きピン48が前記め板の延長部42.44の孔50、52の中をのび、頭付きピン48のコツタ孔56に挿入されたコフタピン54によつて回転自在に取付けられている。

不綉綱の板で作つたクレビス58が、その側面60(その中の一つだけを図示してある)を締め板の延長部42、44の下に横方向になるよう、管46上に配置されている。1/4インチ(6.3mm)直径の頭付きピン62(第2図に断面で示す)がクレビスの側面と管46の孔64を貫通しており且つ頭付きピン62のコツタ孔に入つたコフタビン(図示せず)によつて回転自在に取付けられている。前記頭付きピン48、62は相互に直交する水平の回転軸を構成し、ベース27は各回転軸のまわりに回転することができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12を各回転軸のまわりに回転させ、波乗り板10で起伏することができる。

長さ3インチ(76.2=)、直径1/4インチ(6、3cm)の丸頭のねじ68がクレビス58のベース71の孔70を通りそこから72をその下の台29のほぞ孔78に入つているナフト74とロフクナツト76を通り、これによつてクレビス58をダガボード20に回転自在に取付けてある。ねじ68がクレビス58のベースを充分なびをおいて保持し、クレビス58を全72に接触して回転可能にしている。前記ねじ68は垂直の回転軸を構成し、ベース27はこの回転軸のまわりに回転する

ことができ、従つて、ベース27に取付けられた円柱12をこの回転軸のまねりに波乗り板10で回転させることができる。

第1図と第3図を参照すれば、波乗り板10の表面28から4ブイート(120)のところに構成木製ブーム16,18を円柱の横方向に設け、且つそれらの端部を弓形に連結してある。前記ブームの円柱側の端部は1インチ(25.xx)船の物テープのループ80によつて互に連結され且つ円柱12を間に入れて該円柱に連結されている。このテープループ80は帆のへり30の三日月形の孔82を通る円柱12を取り巻いている。前記テープループ80はい付け86によつて両端にリング84を保持している。このリング84は、木ねじ90によつてブーム16、18に固定した真製のフツク具88と係合することによつてテープ80をブーム16、18に固定する。

第1図と第4図を参照すればブーム16、18はそれらの他端部において帆耳の端部にそれぞれ出し索の孔92、94を備え、またねじ99によつてブーム16、18に固定された禁止め96、98を備えている。出し系100が一方のブーム18の止め98からそのブーム18の出し孔94を通り、帆耳:104の補強した孔102を通り、第2ブーム16の出し孔92た通り、両方の出し孔94、92を通りそこから別のブーム16の止め96に通される。これにより、ブーム16.18はそれらの他端部において互に連結され且つ帆耳に連結される、つぎに出しをびん没つて止め96によつてしめつけて帆14をブーム16、18の問に保持する.

操作時に、使用者は円柱12をユニバーサルジョイント36にて取付けてある位置の背後において波乗り板10の上面28に立ち、一方のブーム16又はブーム18をにぎる.若し使用者が原下に進行していて方向転換したいとき、彼は帆14を前方に傾け、風の力を波乗り板10の先端部に作用させ、帆14のどちらの側面が風にさらされているかに応じて、波乗り板10を三か右に方向転換させる.これに反して若し使用者が上手回し間切りをするために風にまともに向つていきたいとき板は帆14を後方に引いて風の力を波乗り板10の後方に作用させ、波乗り板10の後部を移動させて風にまともに向つていけるようにする、板が風にまともに向いているとき板は単に帆14の前部に歩いて、反対側のブームをにぎつて帆を調整して風が帆14を備え波乗り板10が新らしいコースに入るようにすることによつて上手回しを完了する、速度を調整するため帆を前方と後方に移動させる.

突風によつて波乗り板10がひつくりかえろうとするおそれのあるとき使用者は単に帆をはなして風にまかせて危険を脱する.帆14はその円柱にローブ106を備えており、これによつて使用者は容易にを帆状態に引張りもどすことができる、

本発明の範囲からすることなく多くの正変更を行うことができる.

本発明によれば、風力推進手段をそのユニバーサルジョイントを介して回転及び起伏自在に波乗り板に連結したことにより、突風又は激風時に風力推進手段のブームから手を離せば、該風力推進手段はその帆に風を受けない方向へ倒れ、波乗り板を安定させ、その転ぷくを防ぐことができる。

〈57〉特許請求の範囲

1 使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され,前記円柱及び帆を問に入れて互に連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることをとする、風力推進装置.

FIG.2

〈省略〉

FIG.3

〈省略〉

FIG.1

〈省略〉

FIG.4

〈省略〉

〈50〉Int.Cl. B 63 h 〈52〉日本分類 84 E 8 84 J 21 日本国特許庁 〈11〉特許出願公告

昭46-19373

〈10〉特許公報

〈40〉公告 昭和46年(1971)5月31日

発明の数 1

〈54〉風力推進装置

〈21〉特願 昭44-18073

〈22〉出願 昭44(1969)3月11日

優先権主張 〈32〉1968年3月27日〈33〉アメリカ国〈31〉716547

〈72〉発明者 出願人に同じ

〈71〉出願人 ヘンリー・ホイール・シニパイツアー

アメリカ合衆国カリフオルニア州バシフイツク・バリセードス・ベイルート317

同 ジエームス・ロバート・ドレークアメリカ合衆国カリフオルニア州サンタ・モニカ・メサ・ロード385

代理人 弁理士 浅村成久 外3名

図面の簡単な説明

第1図は本発明の風力推進装置の外観図、第2図は第1図の線2-2における帆の旋回運動に使用するユニバーサルジョイントの断面図、第3図は第1図の線3-3におけるブームとブームとの間の円柱側接合部の断面図、第4図は第1図の線4-4におけるブームとブームとの間の帆耳側接合部の断面図である。

発明の詳細な説明

本発明は風力推進装置に係る。

本発明が関係する分野は船特に帆船並びに氷上ボートと陸上乗物の分野を含んでいる。

風力推進はボートや氷上ボートばかりでなく波乗り板のような船や陸上乗物例えば氷上ボートやそり、すなわり一般的に言えば任意の軽量な小型ボートの動力装置としても考えられてきた。普通は乗物に垂直に固定しているマストに帆を設けるか又は帆とマストを帆装置と制御機構の工にからませている。

普通の帆のない乗物に帆を設ける効果はこの乗物を水上ボート又は陸上ボートにかえることである。すなわち帆を波乗り板に固定するこてとによつてこの波乗り板とその楽しみは失われ且つ従未制御のために必要であつた熱練はもはや必要でなくなる。人々は軽量な帆船の速度と怒じを得る代りに帆船を制御するに適当な熱練が必要となる。帆をつけるように修正した別の乗物についても同じような化が生ずる。横ゆれに対する安定性がない乗物に帆を取付けることによつて突風や微風によつて乗物が転ぶくする問題が発生する。

故に従未は備えていなかつた風力推進装置を乗物に設け、この装置を設けることによつて乗物の元の乗心地や制御特性を失わないようにすることが必要である。

本発明は風に対する感応性と速度を増大し且つ従示の乗心地と操縦性を増強してそれから得られるたのしみを増すようになつた風力推進装置を乗物に取付けることである。使用者を支持するようになつた乗物の本体装置と、前記本体装置と旋回自在に協働して風を推進力として受け入れるようになつた風力推進装置を包含する風力推進機を提供する。前記風力推進装置の位置は使用者によつて制御することができ且つこのような制御を行わないとき旋回抵抗力が殆んどなくなる。

特定の実施例において、ユニバーサルジョイント例えば3個の回転軸線を備えた接手、又は使用者が操作しないとき推進装置を殆んど自由浮動状態にすることができるような接手によつて乗物本体に前記推進装置が連結されている。

前記風力推進装置は乗物の本体に枢着した円柱と、これに取付けた帆とを包含している。使用者が帆の片側又は両側を把持できるようなを設けている。すなわち帆をびんと設るたわ円柱上に横方向に取付け手で保持するようになつたブームを設ける。特定の実施例において前記円柱に横ざに且つ円柱を間に入れてアーチ状に連結される1対のブームを設ける。

本発明は水上艇や氷上ボートや陸上乗物に使用することができる。本発明はヨツトや小型自動車やカスーやこぎ舟等に使用できるが、波乗り板や氷上ボートやスケートボートやそりにもうまく利用できる。波乗り板のような横ゆれに対する安定性の低い船にせかせ装置を設けることができる。せかせと言う言乗は航海技術考に公知である中央板とダガボード(dagger-board)を含み、また安定性を増すために船体から平らに又はななめに水中に突入したその他の突起物をも含んでいる。

本発明は殆んどすべての操縦とかじとりを帆を通じて行い、かじやその他の操縦機構を設けても良いが無くてもよい。帆をあやつることによつて加速も方向転換も上手回しを行うことができる。しかし乍ら帆は旋回自在になつているから使用者が帆を保持して船を安定させねばならない。突風又は風時に使用者は帆を離せば、帆は直ちに風力を受けない方向に移動する。

第1図を参照すれば波乗り板10と円柱12と三角形の帆14とブーム16、18とを包含する風力推進装置が図示されている。前記波乗り板10はその本体部に設けた開口22の中に挿入され且つその底部から斜めに突出したダガボード20をせかせとして備えている。前記ダガボード20の上部は波乗り板10の上面28を幾分越えてのび、あとから充分に説明するように円柱12を枢着するための台29を提供している。

円柱12は丈夫な丸い細長いフアイバグラスの軸であり、この場合この軸は軽くするため中空になつているが中実な木や金属で作つても良く、その下端に円筒状の木製ベース27をくさび止めしてある。前記円柱12は帆14の揺動自在マストとなり、且つ帆14の長い端縁部31に沿つて上方に傾斜したへり30の中に挿入されている。前記帆14の底部は、円柱12に近い帆14の下端縁にあるアイレツト34の中に入つているローブ32によつて、前記円柱12に取付けられている。

第2図を参照すれば円柱12が三軸線ユニバーサルジョイント36によつて前記台29に連結されている。前記ジョイント36は全体を不銹銅で作り且つねじ37によつてベース27の両側に保持されている締め板38、40によつて円柱12に取付けられている。前記締め板38、40はベース27の幾分下までの延長部42、44を備えている。この延長部42、44は不銹鋼製管46の点い区画の両側に配置されている。〈省略〉インチ(6.3mm)直径の頭付きピン48が前記締め板の延長部42、44の孔50、52の中をのび、頭付きピン48のコツタ孔56に挿入されたコツタピン54によつて回転自在に取付けられている。

不銹鋼の板で作つたクレピス58が、その側面60(その中の一つだけを図示してある)を締め板の延長部42、44の下に横方向になるよう、管46上に配置されている。〈省略〉インチ(6.3mm)直径の頭付きピン62(第2図に断面で示す)がクレピンの側面と管46の孔64を貫通しており且つ頭付きピン62のコツタ孔に入つたコツタピン(図示せず)によつて回転自在に取付けられている。

長さ3インチ(76.2mm)、直径〈省略〉インチ(6.3mm)の丸頭のねじ68がクレビス58のベース71の孔70を通りそこから座金72をその下の台29のほぞ孔78に入つているナツト74とロツクナツト76を通り、これによつてクレピス58をダガボード20に回転自在に取付けてある。ねじ68がクレピス58のベースを充分なびをおいて保持し、クレピス58を全72に接触して回転可能にしている。

第1図と第3図を参照すれば、波乗り板10の表面28から4フイート(120cm)のところに積層木製ブーム16、18を設け、且つそれらの端部を弓形に連結してある。前記ブームの円柱側の端部は1インチ(25.4mm)幅の織物テープのループ80によつて互に連結され且つ円柱12に連結されている。このテープループ80は帆のへり30の三日月形の孔82を通る円柱12を取り巻いている。前記テープループ80はい付け86によつて両端に真リング84を保持している。このリング84は、木ねじ90によつてブーム16、18に固定した真製のフツク具88と係合することによつてテープ80をブーム16、18に固定する。

第1図と第4図を参照すればブーム16、18はその帆耳の端部にそれぞれ出し索の孔92、94を備え、またねじ99によつてブーム16、18に固定された索止め96、98を備えている。出し索100が一方のブーム18の索止め98からそのブーム18の出し索孔94を通り、帆耳104の補強した孔102を通り、第2ブーム16の出し索孔92を通り、両方の出し索孔94、92を通りそこから別のブーム16の索止め96に通される。つぎに出し索をびんと張つて索止め96によつてしめつけて帆14をブーム16、18の間に保持する。

操作時に、使用者は円柱12をユニバーサルジョイント36にて取付けてある位置の背後において波乗り板10の上面28に立ち、一方のブーム16又はブーム18をにぎる。若し使用者が風下に進行していて方向転換したいとき、彼は帆14を前方に傾け、風の力を波乗り板10の先端部に作用させ、帆14のどちらの側面が風にさらされているかに応じて、波乗り板10を左か右に方向転換させる。これに反して若し使用者が上手回し間切りをするために風にまともに向つていきたいとき彼は帆14を後方に引いて風の力を波乗り板10の後方に作用させ、波乗り板10の後部を移動させて風にまともに向つて行けるようにする。彼が風にまともに向いているとき彼は単に帆14の前部に歩いて、反対側のブームをにぎつて帆を調整して風が帆14を補え波乗り板10が新らしいコースに入るようにすることによつて上手回しを完了する。速度を調整するため帆を前方と後方に移動させる。

突風によつて波乗り板10がひつくりかえろうとするおそれのあるとき使用者は単に帆をはなして風にまかせて危険を脱する。帆14はその円材にロープ106を備えており、これによつて使用者は容易に帆を帆走状態に引張りもどすことができる。

本発明の範囲から逸脱することなく多くの修正変更を行うことができる。

特許請求の範囲

1 使用者を支持するようになつた本体装置と、前記本体装置と旋回可能に協働し且つ推進力として風を受け入れるようになつた風力推進装置とを包含し、前記推進装置の位置が前記使用者によつて制御でき、前記推進装置が使用者の不在のとき旋回防止力を失うことを特徴とする風力推進装置。

FIG.1

〈省略〉

FIG.2

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FIG.3

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FIG.4

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特許審判請求公告

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特許公報

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